海の時間
| 外ではとても静かに、微かな水音が続いている。 雨音にベールのように包み込まれて、部屋の中は更に密やかで。 全ての生き物が息をひそめて朝を待つような、そんな夜だった。 時折、吹く風に煽られて緩急を付けられたように降る雨が、まるで波のようだと、ロイドは思った。 なんか海みたいだ、と、ぽつりと、声にならない声でゼロスが呟いた。 同じ事を思っていた事に、驚く訳でなく、ロイドも、うん、とただ頷く。 ひとつのベッドに寄り添って、二人で毛布にくるまっている。 仲間達とはぐれて、運悪く雨にまで降られて、狩り小屋らしいものを見付けて逃げ込んでみたものの、薪に出来るようなものは何もなく、簡素なベッドと毛布があったのだけはは有り難かったという状況。 二人は濡れた服を脱いで、一枚の毛布と体温を分け合った。 狭いベッドの上で、何度かお互い落ちそうになりながら、ゼロスは雨の所為だと割り切ろうとして、ロイドはいつにない距離と体温に心拍を上げつつ、落ちないように抱き合う体勢に自然となった。 あったかいな、とゼロスが云った。 でも、そう云ったゼロスの肩はまだ冷たかったのでロイドは毛布を引き寄せて、手を回して温めた。 ゼロスは少しだけ驚いたように、目を見開いたけれど、直ぐに自然な微笑みで、ありがとう、と呟いた。 そうして、ロイドはずっとこうしたかったのだと、気付いた。 こうすれば良かったのだと気付いた。 抱き締めて、緋色の髪に顔をうずめて、ほんとに、ゼロスを好きなんだと思った。 だから、スキだとそのまま囁いた。 ゼロスはただ、息だけで幸せそうに笑った。それから声もなく泣いた。 ずっと、ロイドはどうして良いか判らなかった。 一人で闇の中にうずくまるゼロスを知っていたけれど、手を差し伸べても、その手は虚空を掴むばかりで、届かなくて。 ただ、抱き締めてスキだと云う事が、判らなかった。 こんなに簡単な事だったのに。 だから、今まで云えなかった分も、何度も何度も囁いた。 ゼロスはその度に笑った。 泣きながら笑う顔は、露に濡れた花が咲くみたいに綺麗だった。 それから二人は触れ合うだけの優しいキスをして。 朝が来なければいいと少しだけ思いながら、静かな海のような夜に、抱き合っている。 |